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2008-08 journals

国言詢音頭
2008-8-16(Samedi)
ご無沙汰してしまいました。暑さとともに僕のモチベーションはいい感じで、日々をハードにすごせているところ。

その合間をぬって大阪に出かける。こないだの日記で書いた、「プール学院」を実際に見にいってみよう!という目的があった。
というのは冗談で、日本橋にある国立文楽劇場に。

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1912.html
『五十年忌歌念仏』
 笠物狂の段

『鑓の権三重帷子』
 浜の宮馬場の段
 浅香市之進留守宅の段
 数寄屋の段
 岩木忠太兵衛屋敷の段
 伏見京橋妻敵討の段

『国言詢音頭』
 大川の段
 五人伐の段

噂で知っていたが、『国言詢音頭』はシェークスピアの『タイタス・アンドロニカス』という作品を思い出させるほどだが、演劇と違って、人形だから首、手、足、胴が刀によって飛び散っていくシーンにしばらく動けない。
白眉なのは、

たゞ一刀に拝み打ち、名作、手の内覚えぬ武助「エヽどいつぢや、えらうどやしたな」と捻向く体はてつぺいより二つに分れるから竹割

・・・というシーンで訪問者を頭から斬ったのに、その者は斬られたことに気付かず、「え、どいつじゃ。えらく打ったな」振り向くと頭がポッカリと真っ二つに割れてしまうシーンか。
これは頭から離れない文楽。

国立西洋美術館でカミーユ・コロー展をみる、これだけ纏まった数で見るのは印象派への影響が指摘されている以上に、遠くから、同じく鑑賞者が絵に覆いかぶさるように見ているところの背後から鑑賞するのが何故か、絵が一番よくみえてしまう。
出口でカンディンスキーとコローの関係についてヴァンサン・ポマレッド(ルーヴル美術館)のパネルにはカンディンスキーの"stimmung"という概念 − 楽器の調律と同時に感興を意味する、コローの「想い出」はこれから来ているのではないか、というような文章が添えられていた、講演会でもそれらしい言及はあったようだ。カタログの文章をしばらく読む。
展示で個人的にひかれたのは、《バラ色のショールをはおる若い女》(ボストン美術館)か。緊張している女の子が少しこわばった顔でこちらをみている、バターを塗っているような筆致。
それと、クリシェ=ヴェールか。ファクシミリの歴史をやったからだと思うが、写真術とよく似ているとすぐわかる。太めのペンでササッと陰影を作っていて、妙に荒々しい。
ところで国立西洋美術館には50周年記念の特設サイトがあって、
http://www.nmwa.go.jp/jp/50th/index.html
建築的には、一番最初に出るフラッシュの写真がおもしろい、だって前川の東京文化会館がまだ見えないし、背後には今の国立科学博物館である東京博物館の改修前の姿がある。公園にも緑があまり見えない。空撮のようにもみえるが、どういう写真なんだろう?興味がある。

せっかくの休日を返上して木下長宏先生の塾、岡倉覚三『日本美術史』精読へ出かける。推古時代のパートが終わったが、これだけでも筆記した学生のミスや今もなお謎として残る部分が浮かんでくるあたりがおもしろく、これからの楽しみが膨らむ。今更だが、先生は思想が非常にカッチリしているなあと思い始めている。
雑談のなかで、奈良国立博物館の法隆寺金堂展をごらんになったらしく、カタログがあった。四天王像の赤外線写真がとても気にいられた様子。

そうそう、『崖の上のポニョ』もみた。もちろん、日本語字幕バージョン。
ネタバレにならないように書くと、だんだん息切れしているんじゃないかという感じがする、物語そのものが。母親をなぜ「お母さん」と呼ばないで「リサ」と呼び捨てしているかという議論は、社会学的に考えると、かえって「お母さん」という言葉を浮かび上がらせる、レトリック的なものではないかと思うのだけど。
リサ、と呼ぶことで、それだけで家族構造がちょっとほどけているように思えるのは、僕の頭がどうかしているのだろうか、とか考えた。
そういえば、ここ一年ぐらい映画は一人で見ていて、映画後の感想会(反省会?)が全く出来ないな。

近くに講義を受けたので、帰り道に府中市美術館を訪れ、恩地孝四郎による萩原朔太郎の絵葉書を買う。これは千葉市美術館で見て以来、血管のような、山脈のような頬がいいなと思っている作品だった。
頬、と書いたけどこれは皺かと思いきや、当時の朔太郎の写真をみると、そんなに皺というほどのものではないんだよね。じゃあ、しぼんでいくような、何か思いつめているようなこの皮膚のイメージは何なのだろう。



2008年 8月 16日(土) 15時55分24秒
戊子の年(閏年) 葉月 十六日 戊子の日
申の刻 二つ

大乗寺が紹介されました
2008-8-5(Mardi)


集英社が出している女性誌『éclat(エクラ)』2008年9月号で兵庫県香住の大乗寺が出ました。大乗寺というと、僕が研究対象として何回か通っている寺院です。書店で手にとってみてください。
「応挙・最大最高の仕事は大乗寺にあり!」というタイトルは決して誇張表現ではない。

二階を除く平面図は以下のようになっており、写真は「孔雀の間」という、正面側の部屋。このほかに芭蕉の間、山水の間が円山応挙の障壁画。国宝指定、とあるけど旧国宝の意味で、今は全ての部屋が重要文化財指定です。
各部屋は円山派デジタルミュージアムに詳しくあるのでどうぞ。
http://museum.daijyoji.or.jp/

先月、出光美術館でルオー展をみる。
ルオーは中学か高校のときに初めて知った画家なのだが、好きではなかった。悪い言い方をすると、趣味じゃないのだ。だいたい、輪郭をあんなに暗い色で囲んで動きを止めているかのようで、こちらまでその静態が侵食されてくるような感覚が好きではなかったのだ。実物もたぶん、その頃に美術館でみているとは思うが、好きな画家ではないことは確かだった。
それが変わったのはいつからか、はっきり覚えてはいないが、ルオーが良いと思い始めたのはここ数年のことだと思う。
"Passion"シリーズが全て出ているというので一枚一枚間をかけてみたが、ルオーらしい、独特の青銅色が枠と画の間にたっぷりと展開されているところのが何よりも目がいくところ。
続きは次回に。

2008年 8月 05日(火) 06時44分15秒
戊子の年(閏年) 葉月 五日 丁丑の日
卯の刻 四つ

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