上の画像はパリでテーラーとして活躍されている、鈴木健次郎さんのウェブサイトのスクリーンショット。

NHK「プロフェッショナル」をみる。鈴木健次郎さんが修業時代に聾者に教わったという話が紹介されていて驚いた。調べてみると、本人もコラムで書いている。それを引用してみよう。

過去のメゾンスマルトにはSourd-muet(ろうあ者)の方が2人いました。どちらの方もカッターで、ともにメゾンの成長に大きく関わった方です。Sourd-muetの方がカッターとして選ばれた理由は三つあり、第一は門外不出の技術を他言しないから。第二は手話以外で話せない為転職しにくいということ。そして最後の理由は彼らが飛び抜けて才能があったということです。
(中略)

そのうちの一人、私の師匠Monsieur Andre Souliersは、カッティングの技術はもちろんTailleurとしても全ての工程をこなせる数少ないTailleur Completでした。彼は引退までの45年間、常にMonsieur Smaltoの傍で彼の溢れてくるアイディアを形にしたチーフカッターでした。
私が勤務し始めた一年間、師匠から教わったことはなんと全てウソの内容でした。 なぜウソだった事が露見したか?それは、一年程経ったある日、私がカットしたスーツに問題があり、関わった職人を全て集めて何が悪かったのか話し合いになったのです。カッティングに原因があるとわかると、師匠は”こいつのミスだ!”と私を指さして言うではありませんか。しかし私に取ってみれば教わった通りにやったもの。なぜ師匠がそう言うのかわからない。私は覚えたての手話で熱く反論しました。なんと彼は、“どうせいい加減に聞いてるだろうし技術の程もわかったもんじゃない。それに手話で会話なんてどうせ無理だろう”と考えて、私のやる気と技量を見定めるべくウソを教えていたのでした、しかしこのとき私がやった仕事を見て、“あ、こいつ俺の言ってる事ちゃんとわかってるんだ”と知り、いかに私が真剣に学ぼうとしているか伝わったと言いました。そうしてその日を境に、彼の(正しい)技術を少しずつですが教えてくれるようになったのです。

別の箇所にはこんな記述もある。

チーフ自身口が不自由な方でしたので、コミュニケーションは全て手話でした。

文脈からは、Andre Souliersさんが聾者のように見受けられる。パリに聾者のカッターがいたなんて知らなかった。しかも、スマルトのチーフであったと。鈴木さんがアンドレさんのもとで修行していたときに「手話で会話なんて・・・」と思われていたというくだりは、アンドレさんが手話をメインに思考をしていたことが伺える。それよりも、興味深いのは鈴木さんが「第一は門外不出の技術を他言しないから。第二は手話以外で話せない為転職しにくいということ」と聾者であるがゆえに、言葉を話せないということが逆に、「秘密」を固く守れるというメリットを生みだしていること。
京都盲唖院でも、唖生が京都裁判所に就職し、書生という文書を写す仕事についている人たちがいるのだけれども、その理由も同じ。裁判という、個人の罪状を議論する場においてその資料を写すということはすなわち、その内容を知ることになる。それを漏洩しないということで、聾者が雇用されている事例と相通じる。

思い出すのは、ベックフォード『ヴァテック』に出てくる聾の召使いたち。あの人たちも高貴な身分の人たちに仕えるという意味で、見たことや聞いたことを漏洩しないという特性から雇用されたのであろうか。これは小説ではあるけれども。

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